東京高等裁判所 昭和56年(ネ)2798号 判決
控訴人が昭和五七年二月一八日東京法務局に対し、本件預金債権の債権者を確知し得ず、かつ、本件預金債権につき差押債務者を補助参加人株式会社ショーサンとする債権差押命令が控訴人に送達されたことを理由として、民法四九四条及び民事執行法一五六条二項の規定に基づき、被供託者を補助参加人株式会社ショーサン又は被控訴人として控訴人主張の金額を弁済供託兼執行供託したことは当事者間に争いがない。
しかしながら、右供託は原判決の言渡された後(言渡の日は昭和五六年一〇月二七日)になされたものであるところ、控訴人の請求原因に対する認否によれば、控訴人の認識によっても、本件預金の出捐をしたのは被控訴人で、その預入行為を現実に実行したのは被控訴人の社員井上国雄であったというのであり、また、本件当座預金契約に基づき控訴人の発行した当座勘定入金帳、当座小切手帳及び代金取立手形通帳並びに本件定期預金契約に基づき控訴人の発行した定期預金証書は、いずれも原審において被控訴人から書証として提出されているのであるから、控訴人はこれらの書類を被控訴人が現に所持していることも認識していたものというべきである。控訴人の認識したこれらの事実を基礎として判断しても、本件預金債権は被控訴人に帰属している蓋然性が強く、これに反する証拠としては、補助参加人株式会社ショーサンの現代表者である証人野口清豪の原審における証言があるのみであって、右証言がおよそ信用し難いものであることは原判決の指摘するとおりであり、その他本件に現れた全証拠によっても、前示弁済供託時において、本件預金債権が被控訴人に帰属している旨の原審の認定判断に控訴人が疑念をいだくのも無理はないと思われるような事情が控訴人に存したものとは認められない。
そうすると、控訴人が原判決言渡後においてもなお本件預金債権の債権者が被控訴人であることを確知し得なかったことについては、控訴人に過失がなかったものということはできないので、控訴人のした弁済供託は無効であり、右供託により控訴人が被控訴人に対する本件預金の返還債務を免れたものとすることはできない。
(吉江 近藤 渡邉)